健康アラカルト(120) 薬が消えてゆく?

2023年7月1日
院長 大石 孝

マジックの話ではない。この2、3年の間、薬がどんどん手に入りにくくなっていることをご存じだろうか?薬を処方しようと思っても、「その薬は製造中止になりました、とか、出荷調整で当分入ってきません。」と言われることが多々出てきた。その中には、昔からの安くていい薬も含まれており、総数は少なくとも3000品目以上に上っているとの報告もある。

一つのきっかけは何社ものジェネリックメーカーで発覚したデータ改ざんや製造違反のため、業務停止または改善命令が次々出されたことだ。国は医療費削減のためにジェネリック薬品の普及を急速に進めた結果、ジェネリックのシェアが現在8割に達した。その反動でジェネリックメーカーに過度の負担がかかり、品質より供給が優先されることになった。コロナ禍やウクライナ侵攻等で、薬の原材料が手に入りにくくなったことも一因としてある。しかし、最大の問題は、国の医療費削減政策に行き着く。特に薬剤費をターゲットにして、薬価改定の度に薬剤費を削減してきた。先発メーカーは薬価をどんどん下げられ、かつ、ジェネリックに取って代わられ、その体力はどんどん衰え、新薬を生み出す体力もなくなり、利益の少ない安い薬はたとえ需要があっても製造を中止する方向にいってしまった。新薬を生み出すには多大な投資が必要だが、現在日本の大手製薬メーカーの創薬力は著しく低下している。このままでは、いい薬でも安い物は淘汰され、抗がん剤等の高価な薬しか残らなくなる危険性がある。薬は安い方がいいと思いがちだが、日本全体のことを考えると、それは正しくないかもしれない。

薬価の問題だけにちょっとやっか・・・いかもしれないが、近い将来、治療を受けに病院に行っても、「出す薬はありません」と言われる日が来ないことを祈るのみである。