健康アラカルト(72) 認知症は治すべきものなのか?

2015年 7月 1日
院長 大石 孝

現在、認知症は、65才以上で7人に1人、85才以上になると2人に1人はおり、今後も高齢化に伴い増加してゆくと予想されている。認知症の唯一確実な危険因子は、「年齢」である。すなわち、高齢になればなるほど、そのリスクは高まる。考えてみれば、当たり前のことである。

最近では、あたかも認知症を早期発見・早期治療すれば、癌同様、治るかの如き宣伝がなされている。認知症は、早く見つけて薬を飲んだら治るということはないし、発見が遅くなっても手遅れにもならない。

認知症になると、本人はぼんやりと認知面での違和感を感じ、家族や他人にその記憶の誤りや遂行能力の低下を指摘され、動揺する。そして、「こんなはずではなかった」「また失敗するのでは」「また叱られる」となり、徐々に不安感が増大する。今までの自己肯定感や自尊心が揺らいでくる一方、取り繕ったり、誤りを認めなかったり、引きこもったりするようになる。ところが、周囲には、言い訳や言い逃れに映り、否定的な感情を持たせることになり、その溝はどんどん増大していく。

軽症から中等症の認知症の人は、実は病識もあり、多少の物忘れをしても生活に困っているわけではなく、むしろ、周囲からいろいろ非難されることで困ってしまうのである。

認知症を一種の老化現象と捉えれば、重症や特殊な認知症を除けば、寄ってたかって無理やり治そうとする必要はないのではないか。治療目標は、本人がいかに自己肯定感を回復・維持し、周囲の人々に認められ、生きがいを持って人生を送ることができるかである。周囲は、何とか変えようとするのではなく、現状を受け入れ、そのままのあなたでいいという気持ちを持つ方がよいと思われる。

ここで一句。 「認知症 非難されれば こん畜生」

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