健康アラカルト(74) 医学部新設は良いことなのか?

2015年11月 1日
院長 大石 孝

来年と再来年に、それぞれ仙台市と成田市に、前者は東北の医師不足解消、後者は国際医療に貢献する医師養成という名目で医学部が新設されることになった。それはいいことですね、とは素直に受け取れない。

以前、地方の医師不足、一部専門医の不足、救急患者のたらい回し、医師の過重労働等が社会問題となり、2008年より、国は医学部の定員を増やす方向に方針転換し、この7年間で全国で約1500人増員(7600→9100人)した。これは、新たに医学部を15か所作ったのと同じことを意味する。これに加え、また新たに大学医学部を新設するってどういうこと?

東北地方は、大震災の影響もあり、確かに医師不足が起こっている。しかし、医師が1人前になるには、医学部6年間+最低数年間の研修が必要なことを考えれば、現在進行形の医師不足に全く間に合わない。むしろ、新たに教員用の医師や看護師が多数必要になり、かえって周辺の医師不足、看護師不足を起こす。それより、緊急措置として、税金による多額の補助を受け取っている国立医学部出身の卒業生に、何らかの報酬付きで一定期間の勤務義務を課す方が税金の無駄もなく、効果的ではないだろうか? 我国はすでに人口減少社会であり、近い将来、医師総数は充足される。地方の医師不足や一部の診療科不足は、ひとえに医師の偏在の問題になる。医師養成には多くの税金が使われていることや職業の特殊性を考えれば、多少の義務はあっても良いのではないか?

成田市の場合、その目的とするところの国際医療人の養成は、既設の医学部でも十分行えることであり、わざわざ新設する意味はあるのだろうか?経営母体は民間だとしても、自治体、国からの税金が投入され、一旦作った医学部は、不要となっても簡単にはつぶせない。遅すぎるが、新国立競技場に続き、「白紙撤回」というわけにはいかないのか? 

ここで一句。「新設(新雪)に アクセル踏めば スベルだけ。」

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