2016年10月1日
アドバイザー 加藤 洋男
秋の味覚はいろいろあるが、庶民の味方の代表はサンマだろう。
昔は、炭を入れた七輪を団扇でパタパタ風を送りながら焼くのが定番だったが、現在はシステムキッチンが汚れるので、魚を焼くこと自体が避けられる傾向だ。それでも街を歩いていてサンマを焼いている臭いがすると、何となく幸せな一家団欒の光景が目に浮かんで嬉しい気になる。
ところがこのサンマの漁獲が、今年は過去最低水準だった昨年のさらに40%減だそうだ。高い海水温が一因で漁場は例年より3倍遠いという。さらにはサンマの味覚が近隣国にも気づかれたらしく、大型漁船で大量捕獲して、2009年の倍以上捕獲して日本を追い抜いたという。さばも同様だそうだが、まずは長期的な資源管理の見地から、関係国の話し合いで適正な漁獲を願いたいものだ。
サンマは漢字で「秋刀魚」と書くが、これは比較的最近のようで、夏目漱石の「吾輩は猫である」の猫が盗む魚は「三馬」と書かれていて味気ない。「秋刀魚」は大正時代からと言われる。
江戸の時代は、行燈の油用に使われる程度で殆ど食べなかったそうだが、大火事の後、食べ物がなかった時に食べたら意外においしいので、その後食べられるようになった、との説があるらしい。また、形が刀のようで、腹切り、首切りをイメージするので、武士は食べなかったという話もある。しかし、落語の「目黒のさんま」では、殿様が鷹狩に出た際、供が弁当を忘れて腹をすかせているところにさんまを焼く臭いがしてきた。供は「これは庶民が食べる下衆魚で殿が食べるものではありません」と申し上げたが、殿が食したところ、ことのほかおいしいと満足され、その後は毎日食べたというお話で、いずれも真偽のほどは分からない。
塩焼きには、大根おろしと搾り汁をかけることが多い。搾り汁はユズやレモンもあるが、何といってもカボスとスダチが両横綱だ。大分県を中心に九州地区はカボス、徳島県を中心に四国地区はスダチで、どちらが東の正横綱かはいずれも譲らない。皆さんはいずれの派でしょうか。
季節ごとの味覚は食卓をより楽しいものにしてくれる。これをおいしく、適量に食することは心身の健康によい影響を与えるものと思う。