コーヒータイム(43) イノシシ

2019年2月1日
アドバイザー 加藤 洋男

今年は十二支最後の亥年だが、中国ではイノシシでなくブタだそうだ。中国語で「猪」はブタを意味し、イノシシは「野猪」と書かれるという。なるほど、中国の小説「西遊記」に登場する”猪八戒”はブタだ。
日本では縄文時代にイノシシが飼われ、ブタは弥生時代に家畜化されたものがアジア大陸から入ってきたと言われている。近年ではブタにイノシシを交配した食肉用のイノブタなるものがあり、和歌山県にはイノブタ料理を観光の目玉にした「イノブータン王国」があるそうな。
イノシシ肉は古くから「山鯨」として食され、低カロリー、低脂肪、蛋白質やビタミンが豊富で、滋養強壮の”薬食い”とも言われていた。かの西郷隆盛も奄美大島で好んで食べたと言われている。
宗教的な理由や徳川綱吉の「生類憐みの令」による肉食禁止時代でも、密かにイノシシ、シカ、ウマ、トリなどが食されており、”肉でないふりとして”それぞれ「ぼたん、もみじ、さくら、かしわ」と植物名の隠語で呼んでいた。イノシシのぼたんは肉を切って皿に盛る時に牡丹の花のようにきれいに飾ることからきているという。
欧州では狩猟で得た野生鳥獣を食肉とする”ジビエ”は、自分の領地で狩猟出来るような上流階級の貴族の口にしか入らぬ貴重品で、フランス料理でも高級食材とされ、イノシシは幼獣のうり坊が好まれている。ジビエは最近、日本でも根強いファンがいるとのこと。

歴史的には食の分野でお世話になってきたイノシシだが、最近は厄介者扱いである。農作物の被害は年間数十億円にのぼり、シカやサルを超えてトップに立っている。人の被害も増加しているが、狩猟などによる捕獲数は増えているものの、ハンターの減少もあり追いつかない。「猪突猛進」のとおり突進力が強く、70kgもの体重で時速45km(100mを8秒)の速さで走るため、突撃を受けると跳ね飛ばされて大けがを負う危険性がある。エサを求めて山林から人家のある地域に出没し、兵庫県では県警から警官のスマホへの注意喚起のメールが不審者情報に交じって多いのがイノシシの目撃情報という。電気柵などを張り巡らせるのは費用がかかり、爆竹音などで脅かしても学習能力の高いイノシシ君には効果は長続きしないそうだ。

歳をとってきたせいか食欲が衰えてきているが、健康寿命を延ばすためには肉が重要なようであり、意識してイノシシはともかく肉をとるように心がけたいと思っている。

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