コーヒータイム(55)ねぎ・ネギ・葱

2021年 2月1日
アドバイザー 加藤 洋男

寒い時期は温まって栄養価の高い鍋が美味しい。いろいろな鍋があるが、いずれの鍋にもネギが欠かせない。ネギは大きく分けて「白ネギ(根深ネギ・長ネギ)」と「青ネギ(葉ネギ)」がある。一般的に東日本では白ネギが好まれ、西日本は青ネギが好まれる。若い頃、九州の事業所へ転勤したが、そこで地元出身の方と、どちらのネギがうまいかという話になった。青ネギの栄養価論に押されそうになった時、通りがかりの事業所長が何気なく「味噌汁の具は白ネギが最高だ!」と言った。西の出身の方だが東の生活経験をして以来のことらしい。私もまったく同感で、他愛のない論争に溜飲を下げた記憶がある。

ネギにもいろいろあるが、白ネギは深いところまで土寄せし陽が当たらないようにして白い部分を多くする。太くて甘みがある。深谷ネギ、下仁田ネギ、矢切ネギ、東北地方の曲がりネギなどなど。青ネギは土寄せをしないで陽に当てて育てる。細くて香りがよい。九条ネギを筆頭に広島の観音ネギ、万能ネギ、あさつきなどで、こちらも多士済々である。最近は関東のスーパーでも九条ネギや万能ネギなどが一般的に販売されており、料理により白、青いずれでも選択できるのは嬉しい。料理には鍋、炒め物、焼き物、薬味など多用されるが、一番の思い出はフグ刺しの薬味としての“あさつき”だ。九州に勤務していた頃は、街の居酒屋でリーズナブルな値段でフグが食べられた。もみじおろし、ダイダイ酢そしてあさつきがあってのフグ刺しだ。このあさつきを関東で栽培したが2年目からは育たなかった。

ネギの歴史は、紀元前200年頃から中国で栽培され、日本には奈良時代に渡来し日本書紀にも記録されている。ヨーロッパでは余り普及しなかったという。現在の収穫量は千葉県、埼玉県、茨城県、北海道の順で、人気度は大分の味一ネギ、鳥取の白ネギ、新潟の柔肌ネギ、深谷ネギ、九条ネギの順だそうだ。

 

ネギの花は坊主頭を連想させるため葱坊主と呼ぶ。「擬宝珠(ぎぼし)」は橋の欄干、寺院の階段などに設けられている。一説にはネギ独特の臭気が魔除けになると信じられ、その力にあやかって使われるようになったと言われる。1980年代に爆風スランプのヒット曲「大きな玉ねぎの下」は千鳥ヶ淵の水面に光る武道館の擬宝珠を見つめつつペンフレンドとの切ない恋を歌ったものだった。

コロナ禍は収束の兆しを見せないが、「鴨がネギを背負ってくる」ような甘い話はない。一人一人で守るべきことを愚直に守るしか方法はないと思う。

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