2021年 12月1日
アドバイザー 加藤 洋男
給与や賞与の支給日は給与所得者にとっては大いなる楽しみだ。私が社会人になった頃は袋に現金そのものが入っていた。銀行から会社に金種ごとに整理された現金が持ち込まれ、それを経理など担当部門が袋詰めを行う。毎月の手間もさることながら緊張で大変だったことと思う。一方従業員側は呑み屋へのつけ払いの途中で紛失したり、極くまれに盗難事件とおぼしきこともあった。1968年(昭和43年)12月10日に銀行から東芝府中へボーナス用の現金3億円が輸送中に強奪された事件が起こったが、それを機に給与・賞与の銀行振込みの機運が増した。
給与の支払いは法律により、通貨払い、本人へ直接払い、全額払い、毎月1回以上払い、一定期日払いと5つの原則がある。銀行振込みは従業員の同意があれば通貨払いの例外が認められている。銀行の現金自動支払機の普及もあり、払う側ともらう側双方の問題が一挙に解決した。給料袋は明細書のみになり、新入社員もベテラン社員もその厚みは一緒になった。
ところが最近は明細書もペーパーレスで電子メールなどを使ったウエブ明細に変わっている企業が結構あるようだ。これまで中身は明細書だけでも袋を頂いていたが、こうなると給料日に直接もらうものは何もない。どこから給料を頂いているかの意識はなくなってしまう。
更には、厚生労働省が中心となって給与のデジタル払いが検討されている。銀行ではなく、支払い代行を行う業者が扱う各人の口座に振込まれるもので、キャッシュレス払いを利用している人はその口座に現金をチャージしなくてよくなり便利なものの、業者の破綻が生じた場合に銀行の1000万円保護のような対応はなく、又セキュリティ侵害による不正アクセスなど問題もあり、慎重に事を運んで欲しいものである。
近頃はクレジットの使用明細もウエブ化されて紙の明細は有料だというデパートも現れた。鉄道の遅延状況はホームページを見よとか先般のコロナワクチン予約はネット上で申し込みなど、デジタル庁も発足して、世の中はパソコンやスマホを持つことが当然という感覚で事が進んでいる。流れは止められないものの人の温もりの大切さは忘れたくないものだ。私たちの健康管理もAI(人工知能)によるオンライン診療などという時代が来るのだろうか。マンツーマンの診療で医師から直接適切なアドバイスを頂くことにより気力や元気を取り戻したという経験をしたことは何にもかえがたいと思うのだが。