コーヒータイム(63)水

2022年 6月1日
アドバイザー 加藤 洋男

6月は梅雨の時期で降水量は多いのに水無月というが、この「無」は「の」の意味との説が有力だそうだ。田植が終わって田んぼに水を張る必要がある月で「水張月(みずはりづき)」の説もあるらしい。水を張った後の田は美しい。

水については小さい頃の思い出に井戸がある。近隣数戸の共同井戸で、水を家まで運んでいた記憶がある。夏にはその井戸にスイカやトマトが浮かんでいた。どこの家のものか分からないが、なくなってしまうこともなかった。半世紀ほど前に、正体不明の作家イザヤ・ペンダサンが「日本人は水と安全はただと思っている」と書いた。確かにこの頃を思うと無料の水と何の心配もなく無造作に物を冷やしておく様は、貧しくとも疑うことを知らない幸せな時代だった。現在では残念ながらその面影はなく、誰もが水も安全も多大な費用がかかると認識している。

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日本は四方を海に囲まれ湿潤な気候で降水量が多いため、水は身近な存在で古来、水に関わるいろいろ風流な文化がある。先人たちは水と音を風景の一つとしてとらえ遊び心を庭に取り入れてきた。
 その一つは“鹿威し(ししおどし)”だ。竹筒に水が満杯になると水がこぼれて軽くなった竹筒が元に戻る時に石を勢いよく叩いて「コーン」と鳴る。元々は鳥獣を追い払う農具だったものが、後に音を楽しむようになり日本庭園に欠かせないものとなった。京都の詩仙堂のものが有名だが、気を付けると私たちの周辺でも見かけることがある。

もう一つ水の音を楽しむものとして“水琴窟(すいきんくつ)”がある。手水鉢(ちょうずばち)の近くの地中に作り出した空洞の中に水滴を落とし、底部にたまった水に落ちた際に発せられる音を空洞内で反響させ、地上で聞こえるように設計されている。音が小さい場合は竹筒などを通して聞くこともある。かめの大きさや底部に溜まった水の深さにより音色が変わるようだ。京都では圓光寺など各所にあるが、関東でも鎌倉、高輪の泉岳寺、成田山などで聞くことが出来る。

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コロナ禍で行動が制限されるが、水の音をのんびり楽しんで心を癒すこともよいかも知れない。もちろん暑い日の水分補給は忘れないようにしたいものである。