(17)白梅

zuiki

2021年 3月 1日
理事 德田 好美




梅折るや 盗みますると 大声に一茶

このところ、コロナ禍のために外出を控え、殆ど家に閉じこもりの日々が続いているので、季節の移りに少々鈍感になっている。特に今の季節はいろんな植物が開花の準備中であり、日に一度運動のためと外を歩いていても、色とりどりの花が季節を競い合っている時期ではないので、まだ肌寒い中を、ひたすら万歩計を手に、首をすくめて歩くことだけに集中しそうになる。

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そんな中で、私の散歩道の途中にある竹林のはずれに、数軒の民家があり、各戸のそれぞれの庭に白梅があって、二月の中頃には満開となり、早春の野道を明かるく(いろど)る。場所が場所だけに人通りも少なく、たまに出会っても殆どの人は気にせずに通り過ぎている。そんな中、私はそこを通るたびに立ち止まって、その場の雰囲気を楽しむ。

冒頭の一茶の句は、通りすがりの人が梅の咲いた清楚な姿を見て、ひと枝下さいと(あるじ)に声をかけて居るのだろうか。一茶には何句か<梅を折る>との表現の句があるので、昔は一般的な光景だったのかもしれない。この句を見ていて、「桜切るバカ梅切らぬバカ」という警句があるのを思い出した。

 

東風(こち)ふかば にほいおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ>

これは、菅原道真が九州(大宰府)に左遷された時に詠んだ句だ。大宰府天満宮にはそう言う道真公を偲んで沢山の梅が植えられており、今頃は、さぞ、その盛りを競っていることだろう。