(28)春寒(はるさむ)

2023年 3月 1日

理事 德田 好美

春寒や 出でては広く門を掃き   中村 汀女(ていじょ)

このところ、当地方では降雪を見ない。昨年の冬も雪が降らなかったようにうが、きちんと記録をしていたわけではないので、確かな記憶ではない。今冬は注意していたが、今のところ(あられが降る気配すらない。地球温暖化の確かな現象の一つだろう。例年ならば3月に入って降雪をみるのは、普通のことであった。冒頭の汀女の句―春寒―も、そのような状況をうたったものだろう。

我が家の横の坂道を、人や車が滑って事故を起こさぬよう、いつもの冬は雪かきが不可欠な季節であり、そのような冬の風物詩が一つ消える寂しさはあるが、その必要がなくなったのは有難くもある。
 まだ3月になったばかりだから、早合点するのは早いかもしれぬが、現実はすでに4月を思わせる温かさだ。
 庭の木瓜(ぼけはすっかり散り、梅は、他家ではすでに満開のところも目に付くが、我が家ではようやくぼつぼつと白い姿を現し始めた。テーブルに飾った桃のつぼみも、早くも開かんともじもじしている姿が見てとれる。

水仙、ヒヤシンス、ムスカリ、クロッカス等々、赤や紫や黄色と色とりどりの花たちが、あちこちから可愛い顔を出し、私たちを慰めてくれる。
 昨年末に十本ほど植えたチューリップも、ようやく頭を出し始めた。間もなく赤と白の可愛い全身を現わすだろう。ツツジやバラの季節も遠からずやってくる。

 

汀女の頃の春寒の姿を思い描きながら、筆を措く。