(6)鯉

zuiki

2019年 5月 1日
理事 德田 好美




映りたるつつじに緋鯉現れる高浜虚子

鯉のぼりの季節になった。

以前 我が家に一坪足らずの小さな池があって、鯉を飼っていた。当時はこの地域専用の井戸水があり、鯉を飼うのに適した水が個々の家庭でも豊富に使用できた。多いときは、大小様々十数匹の鯉が泳いでいた。

鯉は池の底の藻草に卵を産み付ける。それをすくって、金魚鉢に入れておくとやがて無数の赤ん坊鯉が孵(かえ)る。始めは数ミリの細い線がきらきらと光るのが見えるだけだが、次第にメダカくらいの小魚となり所狭しと泳ぎまわる。こんなに沢山池で育つのかと見ていると、何のことはない、赤ん坊同志が食べ合って次第に適度の数に落ち着いていくのだ。

金魚鉢から池に帰す日がやがて来る。そのまま戻すと親鯉に追いかけられるので、池中を金網で仕切り、親子を隔てて網越しに対面させた。

そういう穏やかな状況が長く続いたが、地域の井戸が撤収され、県水だけとなって環境が一変した。消毒液の影響など、水質の変化で池の鯉が亡くなるなどの事件もあり、老人の家庭では管理の負担が重くなった。

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鯉たちの行く末を思案していたところ、幸い近くの小学校で飼ってくれるというので、お願いした。

妻と連れだって散歩する時は、必ず小学校の池に寄る。大きくなった鯉たちは健在で、かつてそれぞれに付けた名前を呼ぶと、その鯉が物陰からさっと現れ、他の鯉をしり目に、我々の掌に口づけをする。鯉たちに感謝し、世話をしてくれる小学生に感謝する、なんとも幸せなひと時だ。