2025月1月1日
院長 大石 孝
再び、長屋から・・・。
ご隠居 「今日は蔦屋重三郎の話をしよう」
熊さん 「え~、あの江戸のメディア王と言われた人かい。そりゃ面白しれぃや」
隠居 「時は江戸時代中期、老中 田沼意次の時代じゃ。」
八っつぁん「あの賄賂で有名な?」
隠居 「そうじゃが、彼の時代は、経済が活発で、規制も少なく、自由な時代でもあった。重三郎は数多くの文化人と交流を重ねて、『洒落本』や『黄表紙』等でヒット作を次々に出版したんじゃ。」
熊 「バカ売れだったみたいっすね。」
石庵 「豊かな文化が育つには、経済的な発展が必要だってことじゃな。」
隠居 「重三郎は、今の日本橋に一大書店を構え、飛ぶ鳥を落とす勢いだったそうじゃ。」
隠居 「ところが、その後の浅間山大噴火や天明の大飢饉等が原因で、田沼意次は失脚し、その後を継いだ老中 松平定信は寛政の改革で、質素倹約、風紀や出版物の取り締まりを強圧的に行なったため、経済も文化も停滞していったんじゃ。」
石 「経済を締め上げると、庶民の生活は苦しくなり、結局文化もダメになる。何かと増税したがる今の政府にも聞かせたい。」
隠居 「重三郎は、庶民の不満を狂歌本等で風刺し、その鬱憤を晴らしたため、幕府からさらに弾圧されたんじゃ。」
隠居 「それにもめげず、彼は、喜多川歌麿や葛飾北斎、写楽など日本が誇る浮世絵師達を見い出し、名作を世に送り出し続けたんじゃ。」
八 「重三郎って、教養人で、すげぇ人物だったんすね。」
熊 「それにしても、ご隠居の教養もてぇしたもんだ。その教養は一体いつから身につけたんすか?」
八 「それは教養だけに、今日よ~ってか。」
熊 「バカ。おめぇに聞いてるんじゃねぇぞ。だいたいおまえ、このところ、かみさんに内緒で、吉原に通ってるとか・・。」
八 「何言ってやんでぇ、べらぼうめ!」
注1:洒落本:遊郭を舞台に遊女や客の姿を滑稽に書き出した読み物。
黄表紙:絵入りの小説で、表紙が黄色だった。
狂歌本:五七五七七で風俗等を面白おかしく詠んだもの。
注2:なお、この蔦屋重三郎を描いたのが、2025年のNHKの大河ドラマ「べらぼう」である。