2025年4月1日
アドバイザー 加藤 洋男
春は引越しの季節でもある。進学・就職・転勤等が重なり、引越し業者の確保が困難で「引越し難民」が増え、確保出来ても価格が大幅に上がり大変なようだ。
私は結婚以来、転勤が主体だが、現在の終の棲家は7軒目となる。日本人の平均引越し回数は4回強だそうだが、ベートーヴェンは79回、葛飾北斎は93回、夏目漱石は30回も引越したという。引越し先の土地に真っ先に慣れるのは子供で、次は妻、主が最も遅い。これは新しい所の良い面を真っ先に感じる子供と、旧所の思い出を引きずり新地の欠点を先に見る大人との違いだろうか。引越しは振り返ると大変なこともあったが、子供を含め、いずこの地もよい思い出があり、友がいる。
昔の引越しは現在と異なり、業者は輸送と大物家具の運搬だけで、それ以外の物は居住者が行うのが常だった。若い頃は団地タイプの社宅住まいだったが、社宅の奥さんたちが戦力となり、荷造りから立つ鳥跡を濁さずの掃除まで大半をやってくれた。主(あるじ)は連日の送別会で荷造りをした記憶は余りない。手伝いがあるとはいえ妻は通常の生活に加えての仕事になり、ハードで、引越し先に落ち着いたところで発熱ダウンということもあった。
地方の工場勤務時代に一戸建ての持ち家をしたのはよかったが、その後東京に転勤になりその社宅はマンション形式で、広さはちょうど持ち家の2階部分がなくなった程になった。その時点で座敷テーブルや座椅子などはなくなり、会社補助がある社宅料より補助のない駐車場代の方が高いため車も処分した。もちろん庭はないので、飼っていた大型犬コリーも泣く泣く同僚にお願いし、妻は狭いベランダに置いたプランタンの雑草でも愛おしいという、味気ない生活に一変せざるを得なかった。
江戸時代の町民は引越し蕎麦を持って「末長いお付き合いをよろしく」と挨拶をしたが、昭和期から一般的にはなくなった。因みに大規模引越しの代表である江戸時代の参勤交代は莫大な費用がかかり、遠い薩摩藩では約22億円もかかったそうな。
引越しの必要がなくなっても、改めて家の中は不要と思われるものが何とも多い。思い切って断捨離や、調度品の配置換えなどをして気分を一新するのも、精神衛生上好いかも知れない。